最近の将棋ブームの陰で、うつ病で休場していた先崎学九段の「うつ病九段」という本が出版されています。
先崎九段は、その強さもさることながら底抜けに明るく軽妙なトークが魅力でファンの方も大勢いらっしゃることと思います。
神吉六段(当時)との掛け合いは将棋漫才のようでした。
その先崎九段がうつ病と聞いたときは、信じられませんでした。
本によると昨年の6月にうつが始まったそうです。
そこから入院、退院、リハビリといった過程が描かれていますが、印象に残ったのは「できる」という体験を積み重ねていくことです。
それまで息をするように自然にできていたことが急にできなくなって、揺れ戻しがありながらも詰将棋が解けるようになり、外食に行けるようになり、練習将棋が指せるようになり、と積み重ねていきます。
思い出すのは、トラウマ心理療法のピーター・リヴァインの「トラウマと記憶」の中で書かれている日本の金継ぎ技術の話です。
『トラウマからの回復には、ばらばらになった記憶を再編成する過程がある。それは日本の金継ぎのように、割れた陶器を元に戻すことに加えてさらに芸術的価値を高めることがある。』という内容だったように思います。
うつからの回復の過程でできることが増えていくことと、ばらばらになった陶器をつなぎ合わせていくイメージが重なりました。
先崎九段の本はこの本を執筆された3月で終わっていますが、4月から復帰され、先月には見事に復帰後初勝利をあげられています。
今後のますますの活躍をお祈りしたいと思います。